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連載29 隠された仕掛け―――メタファー、フォーシャドーイング&ペイオフ。


【座付き作家からの質問】

 脚本家は、シナリオの中に様々な“計算”を埋め込むものです。その計算を見抜き、的確な答えを導き出すのは演出家の仕事かもしれませんが、俳優陣にも少しだけ気を使ってもらいたいことがあります。

 メタファーやフォーシャドーイング&ペイオフを題材にして、そのあたりのことを小松Pなりに解説してみて下さい。


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【小松愛の回答】

 メタファーというのは、隠喩とか暗喩といって、伝えたいことをダイレクトに描写するのではなく、他の何かに例えるなどして間接的に表現する方法のことです。表現したいことを敢えて間接的に描くことで、与える印象をやわらかくしたり、より考えるきっかけを与えるというような効果があります。

 例えば、絶対王政時代に王様を批判することは許されませんでした。でも、物語を使うことで国家体制を批判するだとか、物語にすることで問題が普遍化され、当事者ではない人や後の世代の人も、それを見て問題意識を持つだとか。ドキュメンタリーがダイレクトな表現であるとすれば、物語を使って描くシナリオというのは、それ自体がメタファーといえるかもしれません。

 シナリオ上ではキャラクター自身や、出てくる小道具などが何かのメタファーになっていることがたくさんあります。役者は、演出家と、シーンの意味をよく話し合い、ある程度、メタファーを把握しておかないと、せっかくの仕掛けをぶち壊してしまう危険があります。

 私はとても鈍感なのでシナリオを読んでいても映画を観ていても、それが何かのメタファーだったなんてことに気がつくのは少ないのですが、ライターの人は色々考えているわけですね。


 そしてフォーシャドーイング&ペイオフは、いわゆる『前フリとオチ』のことです。ミステリー映画などは、前半で出てきたちょっとした情報が、後半で事件の謎を解く重要なファクターだったりします。この前フリとオチが綺麗にはまることで、観客は「おお!」と思いますし、フォーシャドーイング&ペイオフが弱いと、なんだか随分と突拍子のないラストだったわね、など肩透かしを食らうことが多いです。

 キャラクターアークを描くときもフォーシャドーイング&ペイオフの構造を入れることで、物語の中で主人公が成長する様子を観客に分かりやすく提示することができます。


 第一幕
 いつも何かに怯えているような性格で理不尽な上司から不当な扱いを受けても、へらへらと笑いながらイエスマンを演じてしまう。

 第二幕
 恋人や友人、お得意様らと様々なことがあり、経験を積む主人公。親父or昔の恩師が逝去し、主人公急成長!

 第三幕
 いつものごとく上司から無茶苦茶な命令が飛んでくるが、その日の主人公は毅然とした態度で、上司に対して意義を申し立てる。


 同じようなシチュエーションになり、主人公の反応が変わることで成長した証を観せるという構造はハリウッド映画でもよくお見かけします。観ていてとても分かりやすいですし、1つの物語を観たというパッケージ感、満足感を得られて私は好きです。

 第一幕で主人公の使っている車が、上司の乗っている高級車にぶつけられたとします。それぞれの車がキャラクターのメタファーであれば、へらへらと笑って許す、上司の車の心配をする、自身の車をさらに傷つけるようにゾンザイに扱うだとか、どんな表現を狙うかで、プランが変わってきますし、ペイオフ部分から逆算してフォーシャドーイングを演じないと、結局、期待した効果を得られません。
 
 こういった、メタファーやフォーシャドーイング&ペイオフの仕掛けを壊さないことはもちろん、しっかり理解することで、表現の濃度をあげるチャンスが広がります。

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【座付き作家からコメント】

 脚本家の立場で言えば、メタファーやフォーシャドウイング&ペイオフには果てしなくこだわって欲しいです。

 もちろんそのあたりの裁量は最終的に演出家に託されるわけですが、……こだわって欲しい!