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連載23 キャラクターアークとシェープシフター


【座付き作家からの質問】 

 キャラクターアーク及びシェープシフターという用語について説明してください。

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【小松愛の回答】

 アークとは、弧(アーチ)のことを指します。通常キャラクターは物語を通して何かしらの変化をするものです。「Deep Summer TREASURE」であれば、冒頭ではまだまだ子供なジムですが、冒険を通して少しだけ大人になるといった成長を遂げます。

 目的を達成するために、キャラクターが障害にぶつかり、葛藤したり戦ったりすることで、何かしらの変化をすることをキャラクターアークと言います。プラスの成長だけでなくマイナスな成長も含めて変化のことを指します。


 ちなみにキャラクターディベロップメント(発達)という用語もあります。実際にどんなキャラクターにするか、どう作っていくかがキャラクターディベロップメントに当たります。キャラクターディベロップメントの積み重ねによって、キャラクターアークができるという関係です。


 なぜキャラクターアークを考えるのかと言えば、後半で変化するということを踏まえて、前半部分を作らないと、全体のつながりがおかしくなってしまう可能性があるからです。映像作品であれば、後ろから撮影することもあるでしょうから、演劇に比べてより逆算が必要です。


 キャラクターアークには分かり易い明示型と、非明示型があります。明示型は、フォーシャドーイング・ペイオフと呼ばれることもあります。冒頭と結末で同じようなエピソードを入れて、違いを明確にしたものが明示型の典型です。やりすぎりと、冒頭を見ただけでオチも分かってしまう可能性もありますが、フォーシャドーイング・ペイオフがしっかりと計算されている作品は、ひとつの物語を観たなーという印象を強く持たせることができます。

 はっきりとした証拠がない非明示型は、脚本を読み込んだり、こういう経験をしたら人はどうなるか?と考えてみたりして、キャラクターアークが何かを役者や演出家の間でしっかりと話し合っておくことが大事です。


 稀に変化をしないキャラクターというのもいます。その場合は、変化させないことでこのシナリオは何を表現しようとしているのかを考えて演出家と解釈の擦り合わせをします。


 それから、シェイプシフターという用語があります。通常、キャラクターは弧を描くように物語を通して緩やかに変化することが多いのですが、突然変身するタイプのキャラクターをシェイプシフターと言います。

 いい人だと思っていたら実は悪い人。

 気のいい同僚だと思っていたら、実は某国の工作員、等々。

 ツイスト系のシナリオではよく登場します。通常であれば役者は、キャラクターが徐々に変化する様、移行を表現するわけですが、演じる役がシェイプシフターであれば正体をバラすところが一番、ドラマティックなシーンになります。仮面を外す瞬間をドラマティックにみせるための計算が必要になってくるわけです。

 シェイプシフターは色々な計算を織り込めるので、役者の立場で言えば面白い役どころだと思います。


 どんな役でもキャラクターの変化が物語として何を表現しているのか理解した上でキャラクター作りをしていく必要があります。何においてもですが、しっかりと演出家とのコンセンサスを作りアプローチしていくことが大事だと思います。

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【座付き作家からのコメント】

 以前、小松Pは稽古の最中に次のような発言をしたことがありました。「突き詰めて言えば、役者の仕事はシナリオに描き込まれた“移行”を表現することですよね」──。

 その視点から言えば、キャラクターアークの表現こそ、まさに小松愛にとっては腕の見せ所。多種多様なキャラクターたちが(ポジティブな意味でもネガティブな意味でも)成長していく様を巧みに演じ分けられてこその役者ですからね。
 そのための技術をしっかり磨いて、登場人物の浮き沈みを魅惑的に表現できる女優に成長してもらいたいです。