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連載17 心の中の話(信念・哲学)と、客観的情報(態度、行動)の整理。


【座付き作家からの質問】

 それぞれのキャラクター性をより深く理解するために、登場人物を2つの側面から検証するテクニックがあります。詳しく解説してください。


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【小松愛の回答】

 どんなキャラクターなのかを考える時、登場人物の『心の中』と、『見た目』とを分けて考える方法があるので、それをご説明します。


 『心の中』は、そのキャラクターが自分自身をどう思っているかや、価値観、哲学、信念、信条といったものを探ります。これは外からはわからないことなので、解釈は如何ようにもあると言えます。


 そして『見た目』の方は態度や振る舞い、行動そのものなどで、客観的にどう見えているか、周囲はその人をどう評価しているか、という他人から見える部分になります。 こちらは、シナリオから丁寧に拾い出してくる作業がメインです。


 どうして、こんな風に2つに分けて考えるかというと、キャラクターは心の中と行動が、必ずしも一致しているわけではないからです。

人助けをするという行動を取っていても、そのキャラクターの価値観が、

みんなが幸せになるべき
格好良い自分が大好き
恩を売って相手を利用する

と違えば、行動と心の中を照らし合わせて、誠実な人なのか、単なるナルシストなのか、不誠実な人なのか、というようにキャラクターの解釈も変わってきます。 「人助けをする=優しい」という紋切り型の考え方ではなく、行動と心の中を分けることで、より深くキャラクター性を考えることができるわけです。


 演出家と役者の間で解釈のズレがあると何度演じても、求められている表現に近づかないといったトラブルになりかねません。 『見た目』はシナリオから拾い出すこともできますが、『心の中』の解釈は人それぞれなので、この2つの側面で演出家と役者がしっかりとコンセンサスを築いておく必要があります。2つに分けて考えるのは、話し合いをするためのツールとも言えます。

 
 それから、「相手が好きだから、冷たくしてしまう」など、心と行動がズレている場合は、キャラクターが葛藤しているケースが多くみられます。役者が表現しなくてはいけないのは、まさに葛藤なわけですから、この2つを分けて考えられるようになっておくのは、演技をする上で大事です。

 
 実演の部分で言えば、複数のキャラクターで行動が同じ場合、(敵を倒すとか、試合に勝つとか)キャラクターによって価値観に違いをつけなければ、キャラがかぶっている状態になってしまいます。 1つのチームだとしたら、それぞれの価値観を変えることでキャラクター性をアップさせることができるわけです。 そもそも、まったく同じキャラクターなら居る意味がなくなってしまいますから。

 
 演出家との話し合いのツール、実演での重要性、そういった理由から、『心の中』と『見た目』は分けて考える癖をつけておいた方がよいかと思います。


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【座付き作家からのコメント】

 なるほど、よくわかりました。

 キャラクターを平面的に理解するのではなく、より立体的な把握を目指すためには、『心の中』(哲学や世界観)と『外見』(態度や振る舞い)の2方向からアプローチする方法は有効だと思います。

 二次元の文字情報である脚本を、三次元の物語空間へ立ち上げるのが役者の仕事。立体的で奥行きのあるキャラクター表現を小松Pには常に期待しています。