連載30 小松式シナリオ解析論考総括


【座付き作家からの質問】

 本日で小松式シナリオ解析論考(入門編?)は終了です。ここまで連載を続けてきて、新たに考えたことや感じたことがあれば、教えてください。

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【小松愛の回答】


 改めて小松式シナリオ解析論考連載01から連載29までを読み直してみました。・・・誤字脱字がたくさん見つかってしまいました。これはこっそり修正しておこうと思います。

 自分にとってはシナリオは出演をするか否かを決める判断材料になります。作家や共演者、スケジュール、劇場が決まっていてもシナリオがなければ出演を決めることはできません。シナリオを吟味するメソッドを自分の中で確立しておくことは大事なことです。

 また創作過程で演出家と意思疎通ができなければ役者として力を発揮することは大変困難です。作品の解釈やイメージを演出家と共有するためのベースを築くため、シナリオ解析を自分でやっておくことは必要な準備です。

 これまで書いてきた解析術は、まだ使いこなせるレベルには至っていません。知識や情報としては理解できても、実際にシナリオ解析をしてみると、気づかないことがたくさんあります。

 同じシナリオでも猪本の解析と私の解析を比べてみると、自分の文章はなんて幼稚なんだろうと正直赤面してしまいます。でも解析は正解があるわけでもありませんし、解釈のズレをなくすために使うものなので、今はそれでいいのかなと考えています。もちろん、目標は誰よりもシナリオが読める女優になることですが。役者にとってシナリオが読めることは、本当に大きな武器になりますからね。演じる力と同様、これからも解析の勉強を続けていき、自分自身の解析メソッドを身につけていきたいと思います。

 更新遅れがショッチュウでしたが最後まで、なんとか連載を続けることができました。自分自身の勉強のために書いた連載なので、読みにくい部分や分かりづらい箇所があるかとは思いますが、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。



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【座付き作家からのコメント】


 長期間の連載、お疲れ様でした。

 
小松Pの場合、基礎的な部分はほぼマスターできていると思います。あとは、実践を通して応用力を磨くだけです。

 シナリオを読む力がつけば、その分、女優としての可能性も飛躍的にアップします。新小松研のシナリオ解析論考は今日で終わりますが、今後も油断することなく、シナリオ解析の奥義をひたすらに探究し続けてもらいたいです。


連載29 隠された仕掛け―――メタファー、フォーシャドーイング&ペイオフ。


【座付き作家からの質問】

 脚本家は、シナリオの中に様々な“計算”を埋め込むものです。その計算を見抜き、的確な答えを導き出すのは演出家の仕事かもしれませんが、俳優陣にも少しだけ気を使ってもらいたいことがあります。

 メタファーやフォーシャドーイング&ペイオフを題材にして、そのあたりのことを小松Pなりに解説してみて下さい。


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【小松愛の回答】

 メタファーというのは、隠喩とか暗喩といって、伝えたいことをダイレクトに描写するのではなく、他の何かに例えるなどして間接的に表現する方法のことです。表現したいことを敢えて間接的に描くことで、与える印象をやわらかくしたり、より考えるきっかけを与えるというような効果があります。

 例えば、絶対王政時代に王様を批判することは許されませんでした。でも、物語を使うことで国家体制を批判するだとか、物語にすることで問題が普遍化され、当事者ではない人や後の世代の人も、それを見て問題意識を持つだとか。ドキュメンタリーがダイレクトな表現であるとすれば、物語を使って描くシナリオというのは、それ自体がメタファーといえるかもしれません。

 シナリオ上ではキャラクター自身や、出てくる小道具などが何かのメタファーになっていることがたくさんあります。役者は、演出家と、シーンの意味をよく話し合い、ある程度、メタファーを把握しておかないと、せっかくの仕掛けをぶち壊してしまう危険があります。

 私はとても鈍感なのでシナリオを読んでいても映画を観ていても、それが何かのメタファーだったなんてことに気がつくのは少ないのですが、ライターの人は色々考えているわけですね。


 そしてフォーシャドーイング&ペイオフは、いわゆる『前フリとオチ』のことです。ミステリー映画などは、前半で出てきたちょっとした情報が、後半で事件の謎を解く重要なファクターだったりします。この前フリとオチが綺麗にはまることで、観客は「おお!」と思いますし、フォーシャドーイング&ペイオフが弱いと、なんだか随分と突拍子のないラストだったわね、など肩透かしを食らうことが多いです。

 キャラクターアークを描くときもフォーシャドーイング&ペイオフの構造を入れることで、物語の中で主人公が成長する様子を観客に分かりやすく提示することができます。


 第一幕
 いつも何かに怯えているような性格で理不尽な上司から不当な扱いを受けても、へらへらと笑いながらイエスマンを演じてしまう。

 第二幕
 恋人や友人、お得意様らと様々なことがあり、経験を積む主人公。親父or昔の恩師が逝去し、主人公急成長!

 第三幕
 いつものごとく上司から無茶苦茶な命令が飛んでくるが、その日の主人公は毅然とした態度で、上司に対して意義を申し立てる。


 同じようなシチュエーションになり、主人公の反応が変わることで成長した証を観せるという構造はハリウッド映画でもよくお見かけします。観ていてとても分かりやすいですし、1つの物語を観たというパッケージ感、満足感を得られて私は好きです。

 第一幕で主人公の使っている車が、上司の乗っている高級車にぶつけられたとします。それぞれの車がキャラクターのメタファーであれば、へらへらと笑って許す、上司の車の心配をする、自身の車をさらに傷つけるようにゾンザイに扱うだとか、どんな表現を狙うかで、プランが変わってきますし、ペイオフ部分から逆算してフォーシャドーイングを演じないと、結局、期待した効果を得られません。
 
 こういった、メタファーやフォーシャドーイング&ペイオフの仕掛けを壊さないことはもちろん、しっかり理解することで、表現の濃度をあげるチャンスが広がります。

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【座付き作家からコメント】

 脚本家の立場で言えば、メタファーやフォーシャドウイング&ペイオフには果てしなくこだわって欲しいです。

 もちろんそのあたりの裁量は最終的に演出家に託されるわけですが、……こだわって欲しい! 


連載28 調整装置としてのアクション動詞。


【座付き作家からの質問】

 実演の際に頼りとなる“特効薬的演出ツール”一式を、調整装置と呼びます。(スタニスラフスキーの『魔術的もしも』などが有名です)

 今回は、その中でも特に使い勝手が良い(と私が思っている)『アクション動詞』について、小松Pなりに解説して下さい。

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【小松愛の回答】

 演出家が「このシーンうまくいっていないな」と感じたときに、調整装置として的確なアクション動詞を放り込み、役者の演技を変化させようという演出技法があります。例えば主人公が友達から借金するシーン、友達に対する主人公の行動(アクション動詞)が「懇願する」なのか、または「説得する」なのか、さらには「脅迫する」なのかで、役者の演技も変わってきます。

 アクション動詞は「そのシーンにおけるキャラクターの目的」と重なるケースも多々ありますが、物語内の論理的整合性にしばられる必要はありません。ストーリー上は敵役であっても“色艶”を加えたい場合、調整装置として『告白する』や『抱きしめる』というようなアクション動詞を使うこともあり得ます。

 ストーリー上の設定をこのシーンだけ無視して演技をするというのは内面重視型の演技スタイルだと、なかなか受け入れ難いものがあるかもしれませんが、私自身は非常に分かりやすく、使いやすいものだと思っています。ただ、即座に演技を変化させる対応力が求められるので、そこが最も難しいところです。

 基本的には演出家が役者の演技を自分のイメージに近づけるために使うものなので演出家が考えるものです。役者が自分で考えてもかまいませんが、それを演出家に提案するかは団体のルールによってでしょうか。
 
 このアクション動詞の選び方ですが、目的語を必要とする他動詞であることが良いとされています。他動詞は相手に行うことなので「歩く」や「食べる」はあまり好ましくないということです。
 
 また、『怒鳴りつける』とか『説教する』など感情と身体運動の両方を伴う言葉が良いとされています。例えば『信じる』というのは相手に行うことで感情表現も伴っている動詞ですが、黙っていても信じることはできるので、動きが小さくなってしまう可能性があります。

 
 では、その使い方ですが『直接的な使い方』と『間接的な使い方』があります。『怒鳴りつける』とか『説教する』といったアクション動詞は、そのまま演技に転用できます。
 
 『圧力をかける』や『優位に立つ』などは解釈に広がりがあります。そういったものは、そのアクション動詞をダイレクトに使うよりも、『行為の意図』として再設定し、そこからさらに他のアクション動詞を導き出すことも可能です。例えば『脅す』『いじめる』『大声でなじる』『馬鹿にする』等々。


 アクション動詞は表現を変えるため、演出家のイメージを具現化するためのスパイス位に考えています。他動詞というのは英語だと分かりやすいのだと思いますが、日本語だとしっくりこない部分もあります。あまり難く考えずに動詞ならいいかな、くらいの感覚で使えば良いと私は考えています。

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【座付き作家からの回答】
 
 アクション動詞といえば、ジュディス・ウェストンさんやステラ・アドラーさんを思い浮かべる方が多いと推測しますが、理想現実では諸先輩方が推奨する使い方よりも、もう少しシンプルなアプローチを探究しています。

 一緒に稽古している人間として断言しますが、『アクション動詞』は小松Pの得意分野。今後、その腕をさらに磨いて、“アクション動詞師範”を目指してもらいたいです。    


連載27 キャラクターの目的、意図、焦点。


 【座付き作家からの質問】

 ドラマの基本構造は『目的→障害→葛藤』です。この構造を実際の演技に生かすため、場面ごとに“キャラクターの目的”を整理する術が有名ですが・・・・・・、そのあたりのことを小松Pなりの言葉で解説して下さい。

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【小松愛の回答】

 
シナリオにおいては、ドラマの葛藤は対人関係を使って描かれることがほとんどです。 そのため通常、登場人物は何かしらの目的を持って場面に登場するわけです。 実際の演技でもシーン毎にキャラクターに目的を持たせ、障害や葛藤を表現すると、よりドラマティックになると言われています。その目的をシナリオ解析の段階でしっかりと把握しておけば、役者はシーンを演じやすくなりますし、少なくとも何のために登場してきたのか分からないという状態を避けることができます。

 
 世の中には色々なライターがいるのでドラマ性を否定した作品や、目的を持たないキャラクターが登場するシナリオもあります。これまで読んだシナリオでも「このキャラ、なんで出ているんだろう、必要あるのかな?」なんて思ってしまうキャラクターもいました。実際、目的がないと居なくてもいいキャラクターになってしまうので映像作品なら間違いなくカットされることでしょう。演劇であれば舞台上を華やかに見せたいというメタレベルでの必要性は理解できなくありませんが、演出家とよく話し合って、その場面に最適な目的を持たせた方が演じやすくなるとは思います。


 シーン毎におけるキャラクターの目的の探し方は、

 
 〔榲……そのシーンでやりたいこと、やろうとしていること。
 意図……その目的を採用した理由。
 焦点……その場面で一番気にかけている対象、フォーカス。

 と、3つの視点で考えると整理しやすくなります。


 例えば、通勤に使う自転車の鍵を探すというシーンであれば、目的は鍵を探す、自転車に乗る、会社に行く、給料をもらうため……と考えればどんどん流動してしまうので、目的と一緒に、意図と焦点も考えると整理しやすいでしょう。それでも目的・意図・焦点は解析する人によって多少の差異が出てきます。


 目的 自転車の鍵を見つけること 
 意図 会社に行くため
 焦点 上司との関係

 目的 会社に行くこと
 意図 会議に遅刻しないため
 焦点 時間

 目的 家を出発すること
 意図 会社に行くため
 焦点 自転車の鍵


 どれが正解というわけではありませんがプランを出して役者と演出家でよく話し合っておきズレを少なくしておくことが大事です。


 目的探しは他のキャラクターを巻き込むと良いと言われています。共演者を目的の対象にした方が、リレーショナルコンフリクトがもっとも分かり易く演じやすいんだそうです。共演者を巻き込んだ目的を考えること自体が私にとっては障害、葛藤ですけど。 さらに言えば、共演者を巻き込み、よりハードルの高い目的の方がシーンをドラマティックにすると言われています。


 同僚に迷惑をかけない<同僚を安心さえる<同僚を喜ばせる……などでしょうか、 目的探しが苦手なので、例えがうまくなくてすみません。目的は1シーン1目的くらいを目安に、キャラクターの目的・意図・焦点をしっかり把握して実演に挑む準備をしておくことが大事、というところです。


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【座付き作家のコメント】
 
 詳細な説明、ありがとうございます。大変わかりやすかったです。
 一見単純な概念でありながら、『目的・意図・焦点』はなかなかに奥が深く、かつ実践的なテクニックです。これからも積極的に研究を重ね、100%自分のものにして頂きたいです。 


連載26 ビートの分割、移行の論理性。


【座付き作家からの質問】

 ビートとは、演劇界(演出界?)で古くから使われている脚本分解のテクニックです。

 ビートという用語について説明して下さい。


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【小松愛の回答】


 ビートとは、シーンを構成するひとつひとつの要素のことです。ビートが積み重なることで、ひとつの場面が完成します。音楽で言えば、シーンをAメロ、Bメロとするなら、ビートは1小節ってところでしょうか。


 ビートの変わり目をどこにするかを厳密に考えるには、テクニックが必要ですが、話題や行動が変わるところくらいの感覚で私は考えています。難しく考えずにシーンをビートに分けることでドラマの流れをしっかり把握できれば良いと思います。

 
 その場面で何が起こっているのか、どんな変化(移行)が起きているかを客観的に把握するために、分割したビートにサブタイトルをつけてみるのも有効です。役者と演出家の間でイメージのズレも少なくすることができます。


 ちなみに脚本家はシナリオ執筆の準備段階で箱書きという構成表を作るそうです。シーンをビートに割るのは「シナリオを箱書きに戻す作業」といえるのかもしれません。基本的にはシナリオの段階で移行の整合性は保たれているはずですが、ビートに分割したことで理解できないことや、移行の整合性が取れていないことがわかることもあります。そういう時こそ、そのシーンをどうするのか演出家とよく話し合い、場合によっては演出家が書き直しを要請する場合もあるかもしれません。

 
 ビートの分割はあくまでシーンを理解するために行う作業です。役者がそのまま演技プランに反映させる必要はありません。ビートを意識しすぎると、全体の流れがなくなり、ぶつ切れな演技になってしまいがちです。シナリオをビートに分解しても、最後にはまたシナリオに戻して演技では移行を表現することに注意する必要があります。


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【座付き作家からのコメント】

 脚本をビートに割る作業は本質的に演出家の裁量ですが、そうであったとしても、役者さんがビートを意識することは実務的に有効だと私は考えています。
 小松Pには、“ビートをこなせる役者”に成長してもらいたいです。


連載25 見た目の出来事とドラマ的な出来事。


【座付き作家からの質問】

 「そのシーンの出来事は何か?そこで何が起こっているのか?」をきちんと伝えられてこその役者であり演出家です。そのためにはシナリオ解析の段階で、シーンの出来事をしっかりと把握しておきたいところ。

 今、小松Pが知っている範囲で構いません。出来事の解析法を説明してください。


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【小松愛の回答】

 シナリオを読めば判断できる情報である見た目の出来事と、読む人の解釈によって変わるドラマ的な出来事に分けて考えるようにしています。

 見た目の出来事は誰が読んでも、大体同じようにピックアップできる情報です。順応した出来事とか文字通りの出来事といわれることもあるようです。

 ドラマ的出来事は、そのシーンに内在しているドラマ的な要素をピックアップします。作者がそのシーンを描いた理由、そのシーンでお客さんに見せたいものともいえます。


 例えば、野球の試合のシーンがあったとします。どこチームの試合だとか得点数や状況は誰が読んでも同じように判断できる情報、見た目の出来事です。

 ドラマ的出来事は基本的には主人公を中心に置くことになります。相手に勝負を挑むだとか、自分自身と戦うとか、チームメイトに感謝するだとか、どんなシーンかは読む人の解釈によって変わります。


 ドラマ的出来事の解釈が演出家と役者の間でズレていると、実演において何度やってもOKが出ない状態に陥ってしまうことがあります。大事なのはドラマ的出来事の解釈をしっかり演出家と共有させることですが、ドラマ的出来事にリアリティーを持たせるのは見た目の出来事です。


 見た目の出来事がストライクを取ることであれば、フォームやボールのスピードはどうであってもストライクさえ取れればシナリオに則っていることにはなります。しかしドラマ的出来事が相手に勝負を挑むであれば、やはり道具の扱い方、投げ方、ボールのスピードなどディテールにこだわらなければ嘘っぽくなってしまいす。


 ドラマ的出来事にリアリティーを持たせるためには、見た目の出来事も把握しておかなくてはいけません。スポーツや楽器の扱いがあるような職業的特徴が強い場合は、実務面でどれくらいの練習時間が必要か、できるできないを見極めスタントマンを使うといった話し合いをしておくことも大事です。


 いろいろな解析法であるとは思いますが、解釈のズレを減らすため、出来事を見た目の出来事、ドラマ的出来事に分けて考えています。
 

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【座付き作家からのコメント】


 ドラマ的出来事とは、すなわちそのシーンの意図であり、ドラマをドラマたらしめている要素です。
 しかし、役者がそれをダイレクトに表現し過ぎると、場面全体がどうしても『説明っぽく』なってしまいます。時にはむしろ『見た目の出来事』に集中した方が、観客の心にストレートに響く場面が創れたりします。
 演技っていうのは、本当に奥が深いですね。


連載24 登場人物の関係性。


【座付き作家からの質問】

 ほとんどのシナリオには、主人公を含む様々な人物が登場します。登場人物同士の関係性をいかに把握するかも、シナリオ解析の大切な要素です。

 そのあたりのことをわかりやすく解説して下さい。


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【小松愛の回答】
 
 ドラマの基本は葛藤であるということを以前、書きました。様々な対立構造は基本的にはリレーショナルコンフリクト(人間関係における葛藤)という形で表現されます。

 村の掟に対して疑問を抱くというストーリーであれば、本来は「個人 対 村の掟」ですが、村社会を象徴するキャラクター、例えば村長を登場させ、主人公と村長を対立させるといった具合です。

 テーマやメッセージを表現するために書かれたシナリオであれば、それを担うのは登場人物ですから、登場人物の間にある対立構造を整理することが、葛藤の構図を整理することになります。


 どういう対立構造があるのかが分かれば、ストーリー上のキャラクターの役割が分かってきます。演技プランを考える上でも、このメタの役割を理解しておくことは大事なことです。


 登場人物の関係性を整理する時は、データを地道に拾い上げていく方法と、アーキータイプに当てはめるという方法があります。

データを抽出する場合は、地道に情報を整理していきます。

ゝ嗚楙紊寮瀋
 友達、恋人、同僚等々

脚本上明らかになっているバックストーリー
 それぞれのキャラクターたちの過去に何があったかを整理

周囲のキャラクターに対する喋り方、態度
 ステイタスや親密度などを計る

ぜ囲のキャラクターに対して求めていること、させていること
 求めていることを相手がしなければ葛藤が生まれる

ゼ囲のキャラクターに対して主体的に行うこと
 その行為を相手のキャラクターがどう思っているか

アーキータイプとは、ヒーロー/シャドウ/メンター/シュレスホールドガーディアン/ヘルパー/シェープシフター/トリックスター/ヘラルド、とギリシャ神話を元にした役どころの大きなカテゴリーです。これを使って役割を探る方法です。

 シナリオに同じ意見の人が登場しても意味がありません。キャラクターに差異があるからこそ、テーマを浮かび上がらせることができます。そういった仕組みを理解するためにも、情報を丁寧に拾える時はデータを抽出する方がよいかと思います。


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【座付き作家からのコメント】

 物語における人間関係を整理することは、すなわち物語そのものを見極める作業です。
 登場人物の構図を的確に把握し、かつ予定調和に陥らない表現を小松Pには模索してもらいたいです。
 


連載23 キャラクターアークとシェープシフター


【座付き作家からの質問】 

 キャラクターアーク及びシェープシフターという用語について説明してください。

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【小松愛の回答】

 アークとは、弧(アーチ)のことを指します。通常キャラクターは物語を通して何かしらの変化をするものです。「Deep Summer TREASURE」であれば、冒頭ではまだまだ子供なジムですが、冒険を通して少しだけ大人になるといった成長を遂げます。

 目的を達成するために、キャラクターが障害にぶつかり、葛藤したり戦ったりすることで、何かしらの変化をすることをキャラクターアークと言います。プラスの成長だけでなくマイナスな成長も含めて変化のことを指します。


 ちなみにキャラクターディベロップメント(発達)という用語もあります。実際にどんなキャラクターにするか、どう作っていくかがキャラクターディベロップメントに当たります。キャラクターディベロップメントの積み重ねによって、キャラクターアークができるという関係です。


 なぜキャラクターアークを考えるのかと言えば、後半で変化するということを踏まえて、前半部分を作らないと、全体のつながりがおかしくなってしまう可能性があるからです。映像作品であれば、後ろから撮影することもあるでしょうから、演劇に比べてより逆算が必要です。


 キャラクターアークには分かり易い明示型と、非明示型があります。明示型は、フォーシャドーイング・ペイオフと呼ばれることもあります。冒頭と結末で同じようなエピソードを入れて、違いを明確にしたものが明示型の典型です。やりすぎりと、冒頭を見ただけでオチも分かってしまう可能性もありますが、フォーシャドーイング・ペイオフがしっかりと計算されている作品は、ひとつの物語を観たなーという印象を強く持たせることができます。

 はっきりとした証拠がない非明示型は、脚本を読み込んだり、こういう経験をしたら人はどうなるか?と考えてみたりして、キャラクターアークが何かを役者や演出家の間でしっかりと話し合っておくことが大事です。


 稀に変化をしないキャラクターというのもいます。その場合は、変化させないことでこのシナリオは何を表現しようとしているのかを考えて演出家と解釈の擦り合わせをします。


 それから、シェイプシフターという用語があります。通常、キャラクターは弧を描くように物語を通して緩やかに変化することが多いのですが、突然変身するタイプのキャラクターをシェイプシフターと言います。

 いい人だと思っていたら実は悪い人。

 気のいい同僚だと思っていたら、実は某国の工作員、等々。

 ツイスト系のシナリオではよく登場します。通常であれば役者は、キャラクターが徐々に変化する様、移行を表現するわけですが、演じる役がシェイプシフターであれば正体をバラすところが一番、ドラマティックなシーンになります。仮面を外す瞬間をドラマティックにみせるための計算が必要になってくるわけです。

 シェイプシフターは色々な計算を織り込めるので、役者の立場で言えば面白い役どころだと思います。


 どんな役でもキャラクターの変化が物語として何を表現しているのか理解した上でキャラクター作りをしていく必要があります。何においてもですが、しっかりと演出家とのコンセンサスを作りアプローチしていくことが大事だと思います。

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【座付き作家からのコメント】

 以前、小松Pは稽古の最中に次のような発言をしたことがありました。「突き詰めて言えば、役者の仕事はシナリオに描き込まれた“移行”を表現することですよね」──。

 その視点から言えば、キャラクターアークの表現こそ、まさに小松愛にとっては腕の見せ所。多種多様なキャラクターたちが(ポジティブな意味でもネガティブな意味でも)成長していく様を巧みに演じ分けられてこその役者ですからね。
 そのための技術をしっかり磨いて、登場人物の浮き沈みを魅惑的に表現できる女優に成長してもらいたいです。


連載22 バックストーリー(バックグラウンド)の扱い方。


【座付き作家からの質問】


 役者さんの中にも、キャラクターのバックストーリーを重視する方とそうでない方がいます。『登場人物の履歴書を作成することは、キャラクター創りに有効か否か?』という論争を、理想現実の稽古場でも行ったことがありますよね。

 小松愛の考える『バックストーリー論』を教えてください。


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【小松愛の回答】


 まず、理想現実でのバックストーリーの定義ですが、物語が始まる前の時間軸というものに限定しています。


 浦島太郎であれば、亀を助ける前の出来事や浦島太郎の普段の生活を探ることでしょうか。その人物を理解する上で、キャラクターの過去を探ることは、重要なヒントになることもあります。自分には理解できない人物と出会った時に、その人の過去を探ることで何かがわかることもあるかもしれません。


 そういったことを重要視して履歴書を書くというキャラクター創りがあるようです。私としては、キャラクターを解釈するための一つの方法くらいに考えています。それだけでキャラクター創り終わるわけではありませんし、実際、私は履歴書を書くということはしません。


 もちろん、脚本上で指定されたバックストーリーや、脚本から創造できるバックストーリーはきちんと把握しておくことは必要です。ただ、脚本には登場しない過去を役者が想像する(アクターズシークレット)は、やりすぎると演出家のイメージとずれてしまう可能性があります。役者は自分の役を格好良く見せたいものですからね。


 過去の出来事を並べるよりも、重要なのは、「過去の出来事を今現在のキャラクター自身がどう認識しているのか?」だと思います。


 確かに過去の出来事によって、そのキャラクターの価値観や感情が形成されます。ただ、役者が表現しなくてはいけないのは、キャラクターごとの価値観や感情によって変化する「物事への関わり方やリアクション」です。


 私自身は表現を変えるためのツール、調整装置としてバックストーリーを使うことはありますが、履歴書を書いたり過去を想像したりすることで、何かが変わるかというと、少し疑問です。


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【座付き作家からのコメント】

 極端なまでにバックストーリーを重視する役者さんもいますが、小松Pはその点冷静な立ち位置をキープしている感じですね。なるほど、よくわかりました。
 
 ちなみに、演出家の中には、「そのシーンが始まる直前、登場人物は何をしていたか?」ということをバックストーリーと呼ぶ方もいますが、理想現実では、その手のバックストーリーを一括して『オフ・カメラ・ビート』(カメラが回っていないビート)と呼ぶようにしています。
 
 バックストーリーのみならず、このオフ・カメラ・ビートについても、シナリオ解析の段階で出せるだけのアイデアを出しておきたいところですね。


連載21 魅力的なタグで印象深いキャラクター創りを。


【座付き作家からの質問】

 タグという用語について説明してください。

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【小松愛の回答】

 タグと聞くと洋服についているタグが思い浮かぶと思いますが、それと同じように「そのキャラクターの目印になるような、外から見てわかる特徴」のことを言います。

 ぱっと見てすぐわかる、そのままニックネームになるようなものがタグになるので、「食いしん坊」をタグにしたいなら、「いつもおにぎりを持たせる」などのわかり易い工夫が必要です。

話し方 方言やしゃべり癖、声のトーン等々

癖・習慣化された行動 色々な仕草が癖 比沙子なら空に指で文字を書きながら考え事をする(高き霧の壁)

衣装 ビアンカなら赤い上着ですかね(Deep Summer TREASURE)

身体的特徴 シルヴァーなら足が悪い(Deep Summer TREASURE)

持ち物 めがねやパイプ、選ばれし物だけが持つ青い石とか

・・・いろいろなものがタグになりますし、それがルーティングインタレストにもなりえます。

 脚本上に書かれている場合もあれば、後から追加する場合もあります。いずれにしても、タグについては役者と演出家でよく相談する必要があります。やりすぎるとキャラクター性を壊して悪目立ちしてしまったり、紋切り型の芝居になってしまったり、という逆効果にもなるので注意が必要です。

 ドラマや映画をみながら、どんなタグが使われているか研究すると、なかなか楽しいし参考になります。もちろん安直なパクリはNGですけど。役者としては、普段、自分がやり慣れない仕草をタグとして入れようということになった時に、サッと対応できるかも重要です。


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【座付き作家からのコメント】

 脚本家にとっても、タグを考える作業は結構楽しいです。
 ただし、(小松Pも文中で指摘しているように)“やりすぎ”には注意したいですね。一人のキャラクターに大量のタグを背負わせてしまうと、かえってひとつひとつのタグが目立たなくなってしまいます。いわゆる、『木を隠すなら、森へ』状態です。

 タグについては、出せるだけアイデアを出した後、最適なものを1個か2個使うくらいが丁度よいと思います。


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